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布川事件:虚偽自白はこうして作られた

布川事件:虚偽自白はこうして作られた 

 

1 捜査が行き詰まる中での不法な別件逮捕

被害者の大工が死体で発見されたのは、1967年8月30日。

この強盗殺人事件の発覚から40日以上を経て、櫻井さんが10月10日にズボン1本とベルト1本の窃盗事件で、杉山さんが10月16日に暴力行為事件で、それぞれ逮捕されました。

事件発覚後1か月ほどが経過しても犯人は特定できずに捜査が難航する中で、些細な別件で逮捕、勾留して強盗殺人事件のアリバイを追及したのです。

 

2 櫻井さんの場合

櫻井さんは、事件当日の行動を説明しろとアリバイを追及されましたが、40日以上も前のことなので明確に答えることは出来ず、可能性のある宿泊先を3つ挙げました。そのうちの1つは、実際に事件当日の宿泊先だったにもかかわらず、取調官は、いずれにも泊まっていないことはもう調べてあるなどと述べて、櫻井さんを混乱させました。

さらに、取調官は、「お前と杉山を(被害者宅前で)見た人がいる。」、「貴公の母ちゃんも、やったことは仕方ないんだから一日も早く素直になって話せ、と言ってるんだぞ。」などと言って、櫻井さんを動揺させました。

このような状況の下で、10月15日に櫻井さんは、ポリグラフ検査を受けるように言われ、これで嫌疑が晴れて解放されると期待して受けました。

ところが、ポリグラフ検査の結果についても、取調官から、お前の言っていることは嘘と出たと告げられました。

当時20歳の櫻井さんは、接見禁止中で誰にも相談できず、勝手にしやがれという気持ちになってしました。

櫻井さんは一方で、杉山が誰か他の人とやったのだろう、自分はやっていないのだから、後日、杉山と対面すれば真相が明らかになるはずだとも考え、強盗殺人について虚偽の自白をしてしまいました。

 

3 杉山さんの場合

櫻井さんが、杉山さんとの共犯である旨の虚偽の自白をさせられた翌日の10月16日に杉山さんは別件の暴力行為で逮捕され、強盗殺人事件当日のアリバイについても追及されました。杉山さんは、その日は櫻井さんのお兄さんのアパートに居たと答えました。

しかし、翌17日の取調べの際に、取調官は、櫻井さんのお兄さんはそれを否定した旨を告げてその調書のコピーを見せ、さらに、「櫻井の方がお前とやったって謝っているんだから、謝らなくちゃ死刑になる。」と脅し、他方で認めれば助かると自白を迫りました。

杉山さんは、当時21歳になったばかりでしたが、少年時代に、事件に全然関係ない人が逮捕されて、やったようにされてしまったという経験から、誰かやったという人や見たという証人がいれば、いくら違うと言ってもやったようにされてしまうと思っていたこともあり、否認していれば死刑になるが、認めれば助かるというので、逮捕翌日の10月17日に強盗殺人について虚偽の自白をしてしまいました。

 

4 否認すると留置場(代用監獄)への逆送

櫻井さんも杉山さんも、別件逮捕後、強盗殺人でも逮捕され、警察署の留置場(代用監獄)に勾留されていましたが、その後、二人とも、拘置所(土浦拘置支所)に移されました。

拘置所に移された後、検察官の取調べに対して、二人とも、強盗殺人などやっていないと否認に転じ、検察官によって否認調書が作成されて、強盗殺人事件の勾留満期の11月13日に、二人とも、書類上は、処分保留で釈放されます。

しかし、疑いが晴れて釈放されると喜んだのもつかの間、同日、櫻井さんは、別件の窃盗(当初の逮捕容疑の窃盗事件は起訴されず、それとは別の事件)、杉山さんは、別件の暴行、傷害及び恐喝事件(当初の暴力行為事件は起訴されていない)で起訴され、拘置所で、起訴後の勾留が続いていました。

そして、あろうことか、12月1日には、捜査当局と裁判所は、二人を代用監獄に逆送したのです。これは、別件起訴後の勾留を利用して本件強盗殺人の取調べをするためでした。

二人は、代用監獄で、警察の従前からの取調官の取調べを受け、否認調書を作成した検察官とは別の検察官に警察で虚偽の自白をしたと訴えても信用してもらえず、かえって厳しく追及されました。

二人は、認めなければ、いつまでも代用監獄での取調べが続くという不安から、それよりは、認めて、裁判にしてもらって、裁判で本当のことを言おうという気持ちにさせられて、再び虚偽の自白をさせられました。

 

5 確定審が自白の任意性を認めた根拠

確定審の最高裁決定は、取調べにあたった警察官が、強制、誘導や誤導、偽計、長時間にわたる取調べを否定する証言をしていることや、別件で逮捕されて比較的早い時期に自白をしていること、さらには、自白の録音テープで、体験したものでなければ供述し得ないことを供述していることなどを根拠に、自白の任意性に疑いないとしました。

 

6 崩れた任意性の根拠

確定審で自白の任意性が認められた有力な根拠となった二人の自白録音テープは、11月初旬に警察の取調べの集大成として録音されたものです。

取調官は、録音テープは、この時に録音しただけで、他にはないと証言していました。

(1)しかし、第2次再審請求審で、櫻井さんの10月中の自白テープが提出されて、取調官の偽証が明らかになり、取調状況に関する取調官の証言もまた信用性が疑問視されることになりました。

第2次再審請求審の水戸地裁土浦支部の再審開始決定は、二人の自白は「虚偽の自白を誘発しやすい状況の下でされた疑いがある」としました。

(2)また、第2次再審請求抗告審の東京高裁の決定は、二人が、比較的早い段階で自白していることについて、別件での逮捕、勾留中に、すでに強盗殺人事件のアリバイにつき厳しく追及されていたもので、何の追及もないのに、自主的に本件事件の供述を始めたというものではなかったことを指摘しています。

そして、同決定は、前述の、否認調書作成後の代用監獄への逆送と、その後の取調べによって再び自白に転じた過程について、それを全体としてみたとき、二人の自白の信用性を肯定するような方向のものではなかったというべきであるとし、「虚偽自白を誘発しやすい状況に請求人らを置いたという意味で、請求人らの警察署への再移監には大きな問題があったというべきである」と判示しています。

さらに同決定は、自白を録音したテープは、取調べの全過程にわたって行われたものではなく、変遷の著しい供述の全過程の中の一時点における供述に過ぎず、テープが存在するというだけで供述の信用性が強まるものとは思われないとも指摘しています。

(3)いずれの決定も、直接、任意性という言葉こそ使っていませんが、確定審が任意性有りとした判断について誤りを指摘しているのです。

早期の自白であることや、取調べの一部の録音においてよどみなく供述しているように聞こえるということによって、安易に自白の任意性を認めてしまうことの危険性が示されています。

布川事件もまた、他の冤罪(誤判)事件と同様に、取調状況の全面可視化なしに、自白の任意性を判断することの危険性を示しています。