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布川事件(最高裁第2小法廷係属中)

布川事件について

 

 1967年8月30日朝、茨城県北相馬郡利根町布川で、独り暮らしの大工(62歳)が、自宅8畳間において死体で発見されました。解剖の結果、死因は窒息死、死亡したのは28日夜とされました。

 茨城県警は、10月に入り櫻井昌司さん(当時20歳)と杉山卓男さん(当時21歳)を別件逮捕。二人は厳しい取調べにより自白に追い込まれ、12月に強盗殺人罪で起訴されました。1978年に無期懲役が確定し、第1次再審請求も斥けられ、1996年の仮出獄までの29年間、二人は獄中での生活を強いられました。二人は2001年に第2次の再審請求を申し立て、2005年9月、水戸地裁土浦支部は再審開始を決定し、2008年7月、東京高裁も再審開始を支持する決定をしました。検察官の特別抗告により、現在、事件は最高裁第2小法廷に係属しています。

 

1 違法捜査で自白・再自白に追い込む

  茨城県警は10月10日に櫻井さんを別件の窃盗で逮捕し、13日からはもっぱら本件の取調べをしました。櫻井さんを犯人と決めつけ、偽計や脅迫を用いて自白に追い込み、ついで16日に杉山さんを別件の暴力行為で逮捕し、「櫻井も自白している」と迫って自白に追い込みました。また、警察の取調べが終わり11月上旬に拘置支所に移監された二人が、検察官の取調べに否認すると、二人は12月になって警察留置場に再移監されました。そこで警察官や交替した検察官は、別件起訴後の勾留を利用して自白を迫り、その結果、12月中旬、二人は再度自白に追い込まれました。第2次再審請求抗告審の東京高裁決定はこの再移監について、第2次再審の東京高裁決定はこの再移監について、「虚偽自白を誘発しやすい状況に請求人らを置いたという意味で」、「大きな問題があった」と指摘しています。

  二人は、代用監獄(警察留置場)でのこうした長期・長時間の取調により、自白に追い込まれていき、検察官はその自白を最大の根拠として、二人を強盗殺人罪で起訴したのでした。

 

2 確定審の裁判

  二人は公判で無罪を主張しましたが、確定審の裁判所は、取調官の証言と二人の録音テープを根拠に自白の任意性に疑いはないとし、二人の自白は現場の客観的状況と合致していて信用できるとし、さらに、現場周辺で二人を見たとする6人の証言を、情況証拠、自白の補強証拠、そして二人のアリバイ主張を否定する証拠として高い位置づけを与え、二人を有罪としました。

  しかし、もともと二人と犯行を結びつける物証は何一つありません。結局、二人と犯行を結びつける直接証拠は自白だけでしたが、二人の供述は変遷が著しく、自白内容も二人で甚だしく食い違い、「秘密の暴露」といえるものも何もありませんでした。確定審の判決を基礎づける証拠構造はきわめて脆弱であり、それらは、再審請求審において、ことごとく揺らぎ、崩壊していきました。

 

3 再審請求審で揺らいだ「自白の任意性」

  確定審が自白の任意性を認める根拠とした二人のテープは、11月初旬、警察の取調べのまとめとして録音されたもので、これでは自白の経緯はよくわかりません。そこで櫻井さんは「自白直後の録音テープがある」と主張しましたが、取調官はみな公判廷で「存在しない」と証言しました。

  ところが、第2次再審請求審で櫻井さんの10月の録音テープが提出され、この点に関する取調官の偽証が明らかになり、取調状況に関する取調官証言全体の信用性が大きく揺らぐことになりました。こうした点もふまえ第2次再審請求審の水戸地裁土浦支部決定は、二人の自白は「虚偽自白を誘発しやすい状況の下でされた疑いがある」としましたが、さらに東京高裁の審理では、音響専門家の分析によってこの10月のテープに10箇所以上の編集痕が見つかり、「取調における誘導」がいよいよ浮き彫りになりました。

 

4 崩壊した「自白の信用性」

  もともと、自白では素手で室内各所を物色したとされながら、二人の指紋は一つも発見されず、これに加えて再審請求審では、新証拠や開示証拠により、自白は現場の客観的状況や死体所見と全面的に矛盾し、あるべき裏付けも欠いていることが明らかとなりました。開示された死体検案書や木村千葉大名誉教授の法医学鑑定等により、自白の殺害行為の方法と順序が死体所見と異なることが、また、直井東京理科大教授らの鑑定等により、ガラス戸の破壊を偽装工作とする自白が現場の状況と符合しないことが、それぞれ明らかになりました。さらに、あらたに開示された2通の「毛髪鑑定書」により、死体周辺で採取された8本の毛髪に二人のものが1本もなく、5本は被害者のものでもないことが判明し、むしろ第三者が犯行現場にいたことがうかがわれるに至りました。

 

5 「目撃証言」も崩壊

 確定審が根拠にあげた証人も、犯行を目撃した証人ではありません。しかもこのうち5人は、事件から50日以上経過した後に、別の日の周辺での出来事を8月28日の出来事であるとして供述を録取された人たちでした。再審請求審でこれらの証人の初期の供述調書が開示され、いずれの供述も不自然な形で変更されていった経過が明らかとなりました。

 残りの1人W証人も、事件から半年後、公判になってから「被害者宅前で櫻井、杉山の二人を目撃した」として突然登場した証人です。事件直後には目撃の事実を否定していたこと、公判での証言も変遷が甚だしいことなどから、確定審の裁判でも証言に疑問が指摘されていましたが、再審請求審でこの証人と同じ頃に被害者宅前を通った親子の供述調書などが開示され、被害者宅前にいた男は、二人とは別人であることが明らかとなったのです。

 

6 最高裁(第2小法廷)は、速やかに特別抗告を棄却し、再審を開け

  再審請求審では、弁護人の度重なる開示要請の結果、相当数の証拠が開示され、以上のように開始決定の原動力となりました。毛髪鑑定書、櫻井さんの10月の録音テープ、死体検案書、頸部のパンツ、目撃証人の初期供述、被害者宅前の二人連れを見た親子の目撃供述等々。これらの証拠が確定審で開示されていれば、唯一の直接証拠である自白も、それを支えるとされた目撃証言も、およそ信用できないものであることが明らかになったはずです。しかも、これらの証拠の存在を隠蔽するために、警察官がテープはないと偽証しただけでなく、検察官も、弁護人による目撃証人の初期供述などの開示請求に対し、事実に反する答弁をしていたのです。

  検察側は、このように強引に作り出した都合の良い供述証拠(自白、目撃証言)だけを確定審の法廷に提出し、無罪に役立つ多数の証拠を覆い隠したまま、確定判決を得ていたのです。

最高裁第2小法廷は、不正義の手続により導かれた誤った有罪裁判に対し、速やかに検察官の特別抗告を棄却して再審を開くべきです。