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布川事件:検察官の特別抗告理由補充書に対する反論の要点

 

検察官の特別抗告(2008年7月)の理由は、①証拠の新規性及び明白性に関する「判例違反」と、②「著しく正義に反する重大な事実誤認」の2点でした。

この理由を補充するため検察官が提出した「特別抗告理由補充書」(2008年12月)に対し、弁護団は今年(2009年)4月に「反論書(2)」を提出しました。その要点を紹介します。

 

1 「判例違反」の主張に対する反論

(1)「新規性」に関する判例違反の主張について

  検察官は、東京高裁決定が新規性を認めた証拠の一部は「新規性」の要件を満たさず、最高裁決定(昭和29年10月19日付)などに違反しているとしている。検察官が引用する決定は、身代わり犯や確定審で弁護側が不同意としたため証拠調べがされなかった調書の場合のように、確定審の時点で存在し、かつ認識していた証拠をあえて提出しなかった場合に関するもので、本件とは全く事案が異なり、そもそも判例として引用すべき事案ではない。

本件の東京高裁決定は、「新規性」を確定審における「未判断資料性」と解しており、これは確定した判例であり、何ら判例違反はない。

 

(2)「明白性」に関する判例違反の主張について

  検察官は、「新証拠の信用性が極めて低く、立証命題との関係で証拠価値が乏しく・・・・明白性ある証拠たりえないにもかかわらず・・・・新旧証拠の総合評価に持ち込んだ」「当該証拠の立証命題と無関係に旧証拠を洗いざらい評価し直した」などとして、高裁決定の新証拠の明白性の判断は、最高裁の3決定(白鳥決定、財田川決定、名張第5次決定)等に違反する、と主張している。

  しかし、最高裁3決定は、個々の新証拠ごとに、明白性の存否を判断し、あるいは証拠としての重要性を求めているわけではないし、立証命題で旧証拠の再評価の範囲を限定しているわけでもない。新旧証拠の総合評価に基づき明白性を判断すべきことを求めている。

検察官の主張は、結局のところ、判例違反に名を借りて新証拠の証拠価値に対する非難をしているに過ぎず、特別抗告の理由となる判例違反にはあたらない。

また、本件の証拠構造では、旧証拠を全面的に再評価することが、必要不可欠なことである。

 

(3)新証拠の証拠価値

  なお、検察官は、以上の主張に沿って、高裁決定が主要な根拠とした新証拠の証拠価値について非難をしているが、以下のとおりいずれも理由がない。

①Oさんの目撃供述

  確定判決では、犯行の日とされる1967年(昭和42年)8月28日の夕刻、被害者方前で櫻井さん、杉山さんを見たというW証言が、有罪認定の重要な根拠とされたが、再審請求審では、W証人と同じ頃に被害者宅前を通過したOさんの「被害者宅前にいたのは杉山さんたちとはまったく特徴が違う人物だった」という目撃供述が、W証言の信用性を失わせ、今回の高裁決定で、再審開始の重要な根拠とされた。

  これに対し検察官は、Oさんは「視認条件」(目撃したときの条件)が良好でないことや供述に変遷が見られることなどを理由に「明白性がない」と主張した。

しかし、Oさんの「視認条件」はW証人よりむしろ良好であり(バイクより速度の遅い自転車から、意識的に2人連れを見ていること、杉山さんと面識もあったことなど)、また、供述の変遷というのは、Oさんの上記の目撃供述を不都合と考えた捜査官が人物の特徴を杉山さんに近づけるように誘導した結果であると考えられる。結局、検察官の主張はOさんの目撃供述の信用性を否定しうるようなものではない。

②櫻井さんの10月の録音テープ

  再審請求審で櫻井さんの録音テープが開示された結果、確定審での取調官の偽証や取調べにおける誘導の事実も明らかになり、取調状況に関する取調官の証言全体の信用性が大きく揺らいだ。さらに、音響専門家の中田宏氏の鑑定により、テープの編集の事実まで明らかになり、今回の高裁決定が櫻井さんらの自白の信用性を吟味するうえで、重要な証拠となった。

  検察官は、この櫻井さんのテープに「編集痕がある」とする中田鑑定は信用できない、テープでは具体的で臨場感ある供述をしているなどとして、明白性を否定しようとした。しかし、中田鑑定に客観性、合理性があることは、高裁決定も認めるとおりである。

また、検察官が具体的で臨場感があると指摘する箇所も、取調べによる学習の結果に過ぎないし、その供述が後に変更されている以上、テープ供述の信用性を増強するものではない。

 

2 「重大な事実誤認」の主張に対する反論

(1)W証人の被害者方前の目撃について

  検察官は,W証人は中立である、供述に変遷があっても「目撃した2名が請求人らであるという点は揺らいでいない」などとし、その証言を排斥した高裁決定には、「著しく正義に反する重大な事実誤認がある」とした。

しかし、W証言には、記憶していない事実を作為的に歪めた供述が随所に認められ、中立性には疑問があり、さらにW証人が被害者宅前で見たという櫻井さん、杉山さんの「二人の立ち位置」と「二人を識別した時期とその根拠」などの重要な事項に重大な変遷があり、信用性に乏しい。

目撃の申告の経過が不自然であること、「視認条件」が良好ではないこと、OさんがW証人と同じ時期に被害者宅前で目撃した人物が杉山さんたちとはまったく違うことなどからW証言を採用しなかった高裁決定は、正当であり、「事実誤認」の批判はあたらない。

 

(2)周辺地域での5名の目撃について

  検察官は、被害者宅の周辺(我孫子駅、布佐駅前、利根川栄橋石段)で櫻井さん、杉山さんを見たという5人の証人のうち、布佐駅で杉山さんを見たとするE証言の信用性を高裁決定は否定しておらず、そうである以上、請求人らのアリバイは成立せず、むしろ、被害者宅前(W証言)も含め「各目撃地点が4つの点となり、一本の線となって、互いに補強し合っており、確定審の事実認定は揺るがない」から、この点で「著しく正義に反する重大な事実誤認がある」と主張した。

  しかし、E証人が信用できないこと(その目撃の日が8月28日のことであるといえず、8月25日と混同している可能性が高いこと)は水戸地裁土浦支部の開始決定のとおりであり、根拠とされる捜査報告書の作成経過にも疑問がある。

結局、上記4か所のW証人を除く5人の目撃証言は、別の日の出来事を8月28日のこととして供述させられたか、勘違いして供述するもので、いずれも信用できず、また、各目撃供述は矛盾することはあっても補強しあう関係にはない。この点の検察官の主張も理由がない。

 

(3) 請求人らの自白の信用性

  検察官は、①請求人らが逮捕後まもなく自白していること、②自白には実際の体験無くしては述べられない具体的な供述が含まれていること、③11月初旬に録音された二人のテープの存在などを根拠として、自白の信用性は認められ、この点で「著しく正義に反する重大な事実誤認がある」とした。

  しかし、①諸事例をみても早期自白は必ずしも自白の信用性を担保するものではないこと、②自白に具体的に見える供述が含まれていてもそれが後に大幅に変更されていること、③自白には秘密の暴露はないこと(むしろ無知の暴露があること)、④テープについては、調書供述の学習結果を復唱したものに過ぎず、その一部のみを抽出しての信用性判断は誤りであることなどに照らしても、この点の検察官の主張も理由がない。

  

3 結論

  このように、検察官の特別抗告理由補充書での主張は、要は、「判例違反」に名を借りて、十分な根拠もないのに原決定の事実認定を攻撃しているに過ぎない。その事実認定に対する非難に根拠はなく、「著しく正義に反する重大な事実誤認」にあたるものも何もない。検察官の主張は、適法な特別抗告理由を構成しないことが明らかである。

以上に基づき、弁護人は、最高裁判所(第2小法廷)に対し、検察官の特別抗告を速やかに棄却するよう求めています。