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布川事件:第2回再審公判(10.7.30.)報告  布川事件弁護団

編集された取調べ録音テープの再生と検察のDNA型鑑定請求却下     

 

 注目の第2回再審公判が7月30日に開かれました。取調べ過程の録音テープ等が公判廷で再生され、取調べを録音したテープが作為的に“編集”されていたことが明るみに出されただけでなく、懸案の検察側からのDNA型鑑定請求が、裁判所によって却下されました。

 これによって、布川事件の再審公判は、「無罪判決」に向って、大きく踏み出しました。

 

1 第2回再審公判の内容(2010.7.30.午後1時30分から)

第1回公判において弁護人は、取調べ請求をした170点ほどの証拠の要旨の告知を終えています。第2回公判では、映像や音声にかかる証拠を法廷内で再生し、これに関連する証拠の要旨の告知をしました。これらの証拠は、検察官から開示された取調べの録音テープの他、弁護団が作成した再現実験のビデオテープ等です。

 

(1)取調べの録音テープの再生・・・録音テープは“編集”されていた

最初に、請求審第1審段階で検察官から開示された櫻井さんの昭和42年10月17日の録音テープを再生し、さらに、その音声分析をした中田宏氏の鑑定書記載の波形グラフ、FFTグラフの映像を、映写しました。

弁護団は再審請求審の抗告審の段階で、このテープの分析を音響専門家である中田宏氏に依頼しています。中田氏は鑑定書で、このテープには、①途中で録音を停止し、再開している、②録音を停止し、巻き戻したうえ、録音を再開する(=上書きする)などの編集痕が13箇所にわたって存在すること等を指摘しています。これらの編集箇所については、音声データ、波形及びFFTの画像データを収録したCD-Rが鑑定書に添付されています。

法廷にはアンプや大型スピーカーを搬入し、編集による中断部分の音声を再現すると同時に、プロジェクターを通じ該当箇所の波形グラフ(音の強さの時間変動を波形で表示)とFFTグラフ(周波数ごとに音の強さを色彩で表示)の形で再現し、編集痕の特徴を映像で示しました。

 

検察官は中断・編集はないと主張していましたが、法廷では、編集痕があることが明確になりました。

 

(2)指紋採取のビデオの再生・・・“自白”は疑わしいことが明らかに

二人は手袋をしたり、指紋を拭き取った等の供述を一切していません。ですから、犯行現場から櫻井さん、杉山さんの指紋が検出されて当然なのですが、2人の指紋は一個も検出されていません。

弁護団は、第2次再審に先立ち、現場を再現して、自白どおり素手で物色した場合に指紋が採取されるかどうかを明らかにする再現実験を行いました。その上で、指紋の採取・分析に詳しい元科警研の荒居茂夫博士に鑑定を依頼しました。

この鑑定書では、物色された対象から櫻井さんの指紋と一致する合計11個の指紋が採取されたことが明らかとなり、これは第1回公判で取調べを終えています。今回は、指紋採取状況の一部始終を撮影したビデオ映像の一部を再生して取り調べました。これによって、荒居博士が適正に再現実験を行っていたことをより明確にすることができました。

つまり、“自白”の内容は、現場に残された事実とは矛盾しており、 “自白”は疑わしいことが、明らかになりました。

 

(3)殺害自白に基づく映像の再生・・・“自白”は疑わしいことがより明らかに

弁護団は、殺害行為に関する自白の概要を再現し、これを映像化(ビデオ)していましたが、その一部、30分ほどを法廷で再生しました。

その結果、自白どおりの殺害行為では、行為態様に不自然な点が多数指摘でき、大きな疑問が存すること、とくに被害者が抵抗した場合には自白どおりの格闘・殺害行為が困難なこと等が明らかになりました。また両名の自白に大きな食い違いがあることが映像により鮮明になりました。

 

(4) ガラス戸破壊実験映像の再生・・・“自白”は疑わしいことがもっと明らかに

さらに、弁護団が行ったガラス戸破壊の再現実験のビデオを再生しました。

被害者宅では、ガラス戸が2枚倒れており、そのガラス戸にはめ込まれていたガラス部分が4枚に割れていました。また、ガラス戸の「ほぞ」「かまち」部分が断裂していました。

杉山さんの自白では、「偽装工作をするためにこのガラス戸を取り外そうとしたが、外れないので、取り外す時に右足で右下部分を蹴ったらガラス戸上部のガラス2枚が割れた」となっています。

そこで弁護団は、自白どおりにガラス戸を蹴ることによりガラスが割れるのか、本当の破損の原因は何なのか、現場を再現して実験をし、これをビデオに撮りました。これによると、

①ガラス戸を強く蹴ってもガラスは割れない。

②衝撃によるのではなく、ガラス戸の面が著しく変形する場合にガラスが割れ、同時に「ほぞ」「かまち」に損傷が生じる。

③格闘がありガラス戸に面外変形を来す強い力が加わった場合に現場に似た現象が生じる。

等が明らかになりました。

 

(5)便所脱出実験映像の再生・・・“自白”は疑わしいことが決定的に明らかに

最後に再生されたのは、被害者宅便所からの脱出実験を行った弁護人作成の映像です。

被害者宅の便所の窓では、外側から打ち付けられた桟が2本脱落していました。櫻井さんは自白の中で、「便所の桟を2本外し、そこから脱出して逃げた」と供述していました。そして「その際、窓枠を掴み体を浮かして右足を窓枠にかけた、脱出するときは腕を一杯に伸ばして飛び降りた」と述べています。

この実験は、このような行為態様が現場の状況に合致していると見られるかどうかを、櫻井さんの身長に近い人の協力を得て実施したものです。被験者8名のうち4名分の映像を再生しました。

その結果は、被験者は全員が体を浮かすことはなく、便所窓枠から体を出し腕を伸ばすと足が地に着いてしまい飛びおりる必要はないというものでした。このように、“自白”の内容は現場にそぐわないものであることが、映像により明らかになりました。

 

弁護団が再生した、これら(1)~(5)の音声や映像を、法廷にいた多くの人が、食い入るように見ていたのが印象的でした。

その他関連する若干の書証の要旨の告知を行い、弁護人請求の書証等についての取調べは、後述の検察官が不同意したものを除き、すべて終了しました。

 

2 検察のDNA型鑑定請求却下

本年3月11日の進行協議期日において検察官が突然請求の意向を示し、5月21日に正式に鑑定請求をおこなってきた、現場の死体に残されたパンツ2枚、ワイシャツ、タオルのDNA型鑑定請求。弁護団は、鑑定請求を採用することは許されないと、意見書、追加意見書を出して反論してきています(詳細は、第1回再審公判(10.7.9)報告を参照)。

第1回公判期日において、裁判所は、検察官・弁護人の双方に対し、DNA型鑑定請求についてさらに立証がないかどうか打診をし、検察官は「ないわけではない」との答弁をしましたが、その後7月16日になり、検察官はこれ以上の立証はないとの考えを裁判所に伝えてきました。

今回の公判で、裁判所がこれらの鑑定請求を却下しましたので、この再審裁判は大きく進展することになりました。

 

(1)裁判所の判断

却下決定の理由は、検察官・弁護人から出された意見書・資料を総合的に検討したところ、本件においてはDNA型鑑定の実施を相当とする前提が欠けている、というものです。

これに対して検察官は、証拠の必要性・関連性に関する判断を誤ったもので、裁判所の裁量権を著しく逸脱している、として異議を出しました。

弁護団は、これまで意見書で2度に亘り反論をしたとおり、本件のDNA型鑑定は必要性・関連性がまったくなく、DNAが仮に付着していたとしても、それが犯行時に付着したということを検察官が証明しえないことが明らかであり、却下の決定は当然であるとの意見を述べました。

裁判所はこの弁護団の意見も聞いた上で、検察官の異議を棄却し、本件再審公判ではDNA型鑑定を実施しないとになりました。

 

(2) 決定の意義

弁護団は、これまで述べてきた理由のとおり、裁判所の決定は当然のものと考えています。杜撰な保管状況にあった資料では適正なDNA型鑑定はできず、逆に、再審公判が再び冤罪の誤りを重ねてしまうおそれがあります。弁護団は、裁判所の決定は誠に正当な決定であると評価しています。

 

3 証人の採用決定

(1)目撃証人の採用決定

請求審において検察官は、「被害者宅前の人物を目撃した」とするOMさんの供述調書3通を証拠開示しました(このOMさんは、確定審で証人となったOさんの母親なので、「OMさん」と表記します)。請求審になって、この調書の存在が初めてわかったのです。10月16日の警察官調書の内容は、OMさんが8月30日に被害者宅前で目撃したのは、杉山さんとはまったく異なった特徴の人物であったというものです。

弁護団は、開示されたOMさんの供述調書3点を証拠請求していました。しかし、検察官は、自らが作成した検察官調書を含んでいるにもかかわらず、3通を不同意にしました。

弁護人は検察官の姿勢を批判し、不同意を撤回するよう、また裁判所にも検察官を説得するよう進行協議期日の時から強く求めてきましたが、検察官は弁護人の説得に耳を貸しませんでした。

弁護人は検察官の同意が得られないため、OMさんの証人請求をしたところ、裁判所はこれを採用し、第3回公判(9月10日)において尋問を行うことが決まりました。

 

(2)開示された捜査報告メモ

他方、弁護団の開示要求を受け、検察官は進行協議期日の時点で、犯行日とされる日から2日後の昭和42年8月30日に、OMさんから事情聴取をした捜査官の「捜査報告メモ」を開示しました。

そのメモには、前述の警察官調書と同様、OMさんが8月30日に被害者宅前で目撃したのは、杉山さんとはまったく異なった特徴の人物であったことを捜査官に申告していたことが記されていました。

そこで弁護団は、このメモを書証としての取調べるよう請求しました。しかし検察官がこれにも不同意としたので、弁護団はOMさん同様、この捜査官も証人請求をしていました。

検察官は、捜査官のメモの記載事項はOMさんにかかる伝聞証拠であり、物として扱うこともできないし、さらに捜査官は確定審で尋問を受けているので、再審公判で尋問を実施することは蒸し返しであるなどとして、証人請求は却下すべきという意見を述べました。

これに対し弁護人は、OMさんが捜査官に対して申告した事実自体を要証事実としているので「伝聞」ではない、検察官の姿勢は証拠隠しに当たる、捜査官は櫻井さんの取調べやテープ録音についても重要な証人であることを指摘して、証人として採用するよう重ねて求めました。しかし、検察官は最後まで反対の姿勢を崩さず、裁判所は、OMさんの尋問を実施した後に、捜査官の証人採否の判断をすることになりました。

 

以上のとおり、第3回公判においては、被害者宅前で2人の男を目撃したというOMさんの尋問を行うことになりました。OMさんの調書、捜査官メモ、捜査官証人採否、被告人質問の扱い・進行方法等については、OMさんの尋問が終了してからあらためて協議をすることとなりました。

 

4 弁護団の今後の方針

検察官の有罪立証の要であったDNA型鑑定請求は、検察官・弁護人間の激しい応酬を経て、却下となりました。次回第3回公判(9月10日)には、被害者宅前の重要な目撃証人であるOMさんの証人尋問が行われます。

そのうえで、引き続き、違法な捜査経過をさらに明らかにするために捜査官の証人尋問を求めるとともに、検察官が不同意にした供述調書等の取調べも追求していきたいと考えています。

検察官のDNA型鑑定請求が却下され、これに代わるあらたな有罪立証がない現状で、審理は一気に早まる気配となりました。弁護団は、これら残された課題を確実に遂行し、早期に無罪判決を得られるよう、力を結集していきます。

以上