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名張毒ぶどう酒事件:弁護団からの最新の報告(10.3.29)

「化学論争化しようとする最高検の不当な態度」

   この再審請求が最高裁にかかって2年7か月、何の主張もしてこなかった最高検が、突然化学論争を開始しました。この不当な経過をご報告します。

1,第7次再審請求の経過

名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求のこれまでの経過は次のとおりです。

①    弁護団2002年4月10日第7次再審請求申立、

②    名古屋高裁第1刑事部2004年4月5日、再審開始・死刑執行停止決定、

③    同高裁第2刑事部2006年12月26日、原決定取消・再審請求棄却決定、

④    弁護団2007年1月4日特別抗告申立(最高裁第3小法廷)。

 

2,検察官答弁書を提出(2009年10月23日)

検察官は、特別抗告申立後2年7ヵ月経過した2009年10月23日、最高裁に特別抗告申立書に対する答弁書を提出しました。

 

3,弁護団反論意見書を提出(2010年1月29日)

この検察官答弁書に対して、弁護団は反論意見書を提出しました。

以下には、検察官答弁書に触れられた新証拠1~3に対する意見と、これに対する弁護団の反論を紹介します。

(1)新証拠1(偽装的開栓が可能であることを示す開栓実験)

本件のぶどう酒瓶は、二重王冠の外蓋である「耳付き冠頭」の耳を覆うように封緘紙が巻かれているため、耳を引っ張って開栓すれば、当然、封緘紙は破れることになります。第5次最高裁決定は、耳付き冠頭や封緘紙が公民館囲炉裏の間で発見されたこと等から、犯行場所は公民館囲炉裏の間であると断定し、公民館で一人になったことがある奥西さん以外の者に犯行可能性はないという結論を導きました。

しかし、耳の反対側から栓抜き等を使って耳付き冠頭を開ければ、封緘紙を破らずに、いとも簡単に開栓することができ、毒を混入した後、再び栓をすることによりあたかも開栓前のような状態に戻すことができます。弁護団は、封緘紙や二重王冠を精密に復元して開栓実験を行い、このことを明快に証明しました。これが「新証拠1」です。

新証拠1によって、第5次最高裁決定の前提が崩れ、耳付き冠頭や封緘紙の発見場所からは犯行場所を公民館であると断定することはできなくなります。そうすると、公民館にぶどう酒が運ばれる前に奥西さん以外の何者か(真犯人)が、ぶどう酒に毒物を混入した可能性が出てくることになります。

異議審決定は、偽装的開栓方法は「あまりに特異すぎ、犯人が容易に思いつく方法とは認められない」と言って、新証拠1の明白性を否定しました。これに対し弁護団は、事情を知らない10名の学生に本件ぶどう酒瓶の封緘紙を破らずに開栓するように求め、内2名が短時間の内に偽装的開栓に成功するという実験結果(原・厳島鑑定)を新証拠として最高裁に提出しました。

検察官の答弁書は、この「原・厳島鑑定」に難癖をつけ、異議審決定の内容を繰り返して述べるに過ぎないもので、到底有効な反論にはなっていません。

 

(2)新証拠2(四つ足替栓の足の折れ曲がりに関する新証拠)

新証拠2は、2重王冠の内蓋である「四つ足替栓」の足の1つがきれいに折りたたんだように折れ曲がっていることに着目し、この折れ曲がりが人間の歯によって形成されたものではないことを、金属塑生学の見地と歯による開栓実験によって明らかにした「石川鑑定書」です。

第5次最高裁決定は、四つ足替栓の表面の傷跡が人間の歯の痕であるか、あるいは人間の歯の痕である可能性が強く、それが奥西さんの歯によってついた傷痕であったとしても矛盾はないとして、その限度で「黒3鑑定」の証明力が残ると判示しました。しかし新証拠2により、黒3鑑定の残された証明力も完全に消滅することになり、「四つ足替栓を歯で噛んで開けた」という自白は何の裏付けもないことになります。さらには、公民館囲炉裏の間から発見された四つ足替栓は、本当に事件のときのぶどう酒瓶に装着されていたものだったのか、別の機会に飲まれたぶどう酒に装着されていたものではないのか、という一審無罪判決が抱いた疑問を一層強く浮かび上がらせることになります。

検察官の答弁書は、科学的に誤った論理やすり替えの論理で、新証拠2の証拠価値を否定しようとしていますが、新証拠1と同様、揺るぎない事実に対する有効な批判とはなっていません。弁護団の反論意見書では、検察官の批判が的確でないことをあらためて指摘しました。

 

(3)新証拠3(犯行に使用された毒物に関する新証拠)

ア 新証拠3の意義・重要性

検察官の答弁書は、全体139頁のうち74頁が新証拠3の批判に割かれています。検察官が、新証拠3を最大の争点と考えていることは疑いがありません。弁護団も、反論意見書全体153頁のうち76頁分を新証拠3に費やし、検察官の批判が全くあたらないことを論証しました。

イ 検察官の主張とこれに対する弁護団の反論

検察官は、ペーパークロマトグラフ(PC)試験でトリエチルピロホスフェートが検出されなかった理由について、次のような主張しました。

①    「飲み残りのぶどう酒には、加水分解によってトリエチルピロホスフェートの成分がTEPP等の成分に比べて、相当少なくなっていた。」

しかし、トリエチルピロホスフェートがニッカリンTの主成分であるTEPPに比べて圧倒的に加水分解の速度が遅いことは、弁護団の提出した鑑定によって明らかです。検察官の批判は、非科学的な誤解やこじつけによるものです。

②    「ペーパークロマトグラフ試験の前処理であるエーテル抽出において、トリエチルピロホスフェートの抽出効率が悪かったので、抽出されなかった。」

しかし、酸性条件でのトリエチルピロホスフェートのエーテル抽出効率は悪くはなく、当時の実験でも酸性条件で成分が十分抽出されていることが確認できます。検察官の批判には、科学的な説得力がありません。

③    「飲み残りのぶどう酒(事件検体)とニッカリンTを混ぜて作ったぶどう酒(対照検体)とでは希釈倍率が違っており、飲み残りのぶどう酒のほうは相当薄かったから、トリエチルピロホスフェートが検出されなかった。」

しかし、三重県衛生研の実験で用いられた対照検体は、飲み残りのぶどう酒のpH値に合わせて作られており、両者の希釈倍率に違いはありません。またエーテル抽出と濃縮が十分に行われておれば、当初の希釈倍率に違いがあってもPC試験の結果には影響ありません。本件では、エーテル抽出と濃縮が十分行われており、トリエチルピロホスフェートが検出されなかったのは、もともと含有されていなかったことを示しています。

④     「トリエチルピロホスフェートは、発色剤に対する発色力が弱いから検出されなかった。」

検察官の上記①~③の主張は、これまでの主張の繰り返しですが、この④の主張はこれまでにない新たな主張です。しかも検察官は、九州大学准教授が作成した専門的意見書を基にこの主張を展開しています。この九大准教授はすでに異議審段階で名古屋高検から新証拠3に関して照会を受け、一定の見解を述べていたこと、しかし、名高検はこの准教授の意見書を異議審では一切提出していなかったことが、はからずも最高検が最高裁に出してきた彼の研究歴から明らかになりました。

弁護団は、新証拠3の鑑定書の作成者であり、農薬に関する化学の専門家である神戸大学佐々木教授と京都大学宮川教授の「准教授がいうトリエチルピロホスフェートは発色力が弱いとする化学的根拠」はないとする意見書を得て、反論意見書とともに最高裁に提出しました。

 

4,検察官の不当な対応・・・答弁補充書1,2を提出(2010年2月19日)

この弁護団反論意見書に対し、検察官はさらに答弁補充書1、2を提出してきました。

答弁補充書1は、新証拠3(毒物に関する新証拠)に対する弁護人の反論に対し、前記准教授の専門的意見書を添付した再々反論書です。

問題は、本件が最高裁に掛かって2年7ヶ月もの間、何の反論もしてこなかった最高検が、最高裁の審理が大詰めを迎えたこの時期になって、化学の専門家(前記准教授)の意見をつけて新たな主張を出してきたという点です。

弁護人からの反対尋問の機会が保障されない最高裁の段階で専門的意見書を提出して、本件を化学論争化しようする最高検の態度は、本件審理をいたずらに混乱させ、再審開始決定を先延ばしさせようとする不当な態度と言うほかありません。

 

5,弁護団は検察官答弁補充書1に対する反論書を準備中

最高裁は、このような最高検の態度に惑わされて、再審開始決定を下すことにいささかでも躊躇することがあってはなりません。弁護団は、新証拠3の証拠価値を一層明確にするため、現在、答弁補充書1に対する再反論書を準備しているところです。

なお、検察官答弁補充書2は、「ぶどう酒瓶の外蓋を封緘紙ごと火ばさみで突き上げてはずし、内蓋を歯で開けて農薬を混入して、内蓋だけ元に戻しておいた」という死刑判決が認定した犯行方法であったのなら、ぶどう酒瓶は開栓されたことが一見明らかな状態になっていたことになり、会食前にだれもその異変に気づかなかったことは不自然であるとの弁護団の批判に対して、ぶどう酒瓶の蓋や瓶口を意識的に見る状況になかったから異変に気づかなくても不自然ではない等と主張するものであり、あえて反論する価値のないものです。

 

 

奥西さんに残された時間は、決して長くはありません。最高裁が速やかに再審開始決定を下すよう皆様の一層のご支援をお願いします。