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足利事件 第1回再審公判 宇都宮地裁で始まる(10.21)

公判は裁判員裁判用の法廷で、午前10時から午後4時50分ころまで開かれました。菅家利和さんと弁護人13名が出席。裁判官は佐藤正信(裁判長)・小林正樹・市原志都、検察官は山口幹生、築雅子の2名。(敬称略)

 冒頭、裁判長が公判に臨むスタンスを説明

冒頭、佐藤正信裁判長は、要旨、次のように述べました。 「再審公判は、確定審の裁判に誤りがあったかどうかを明らかにすることである。再審も被告人の有罪・無罪を明らかにする手続にほかならないから、模索的に証拠調べを行うことはその権限を逸脱する。しかし、弁護人が確定判決の違法を主張している点に鑑み、その主張を判断する上で必要な証拠調べを行うことは、一般論として、その目的の枠内にある。」 「弁護人は裁判所に対しても謝罪を求めているが、裁判所としては、まずは公正中立な立場で審理に臨み、しかるべき対応は判決の際に示したい。」

 裁判長「菅家さん、前においで下さい」と促す

人定質問に先立ち、裁判長は「菅家さん、前においで下さい」と促しました。検察官が1991年12月の起訴状を朗読。意見を求められた菅家さんは、「私は(被害者を)殺してはいません。真犯人は別にいます」と述べた後、検察官席に向かい、「検察官は真相を解明しないまま無罪判決を出すことを求めています。しかし、冤罪に苦しむ人が二度と出ないようにするために十分な証拠調べを行い、足利事件の真実を明らかにし、私の納得の行く判決を下してください」と、用意してきたメモに基づき述べました。続いて佐藤博史主任弁護人が意見を陳述。「菅家さんの無実は既に検察官も認めている。この事件は裁判員裁判ではない。しかし法廷は裁判員裁判のものだ。この裁判が裁判員裁判の模範となるには何をすべきか。私たちは弁護人にも重大な責任があったことを認めている。検察官も責任を認めてもらいたい。この裁判が足利事件の真実を明らかにすることを求める。検察官、ともに私たちが犯した過ちを見極めようではないか」呼びかけました。

裁判所による手続きの更新

続く「手続の更新」では、裁判所の職権で、確定審の証拠の取り調べが行なわれました。大型スクリーンに「確定審の証拠構造」として当時の地裁と高裁の主な証拠が要領よく示され、裁判長が主に客観的証拠の内容の要旨を告げました。遺体発見現場の状況や遺体の状況は詳細で、折れ曲がった葦の状況、捨てられた被害者の衣類に草が押し込められていたこと、遺体に砂がついていたことなど、確定審で解明し尽くされていない点を示唆するものでした。また、菅家さんの捜査段階の自白調書の一部を抜粋して、陪席裁判官が朗読。これも菅家さんの主張と対立する部分を明らかにする的確なものでした。

弁護側、証拠排除を求める証拠の説明

続いて弁護側は、証拠排除を求める2つの証拠についての説明に入りました。午前中は「①科警研のDNA鑑定関係の証拠」について、笹森学弁護人がスクリーンを使いながら、半袖下着、ティッシュペーパー、DNA鑑定(1審検甲72号証)、もう一つのDNA鑑定(1審検甲78号証)、出現頻度、証拠能力、規則的対応関係、バンドパターンの各項目について、科警研技官の証言を織り交ぜながら説明。科警研のDNA鑑定には、確定審の段階から疑問があったことを浮き彫りにしました。

   午後1時から3時ころまでは、「②菅家さんの公判廷の自白関係の証拠」について説明。神山啓史弁護人が、主に自白を維持した公判廷の供述を、泉澤章弁護人が、否認した公判廷の供述を、松本恵美子弁護人が、菅家さんが家族や当時の弁護人に宛てて出した手紙を、それぞれ朗読しました。時系列に交互に朗読されたため、菅家さんが公判廷で自白しながら、他方で懸命に否認の手紙を出していた様子が浮き彫りになりました。1審最後の被告人質問の朗読では、否認の理由を、西巻さんら支援者に唆されたのではないかと検察官や裁判所が菅家さんに問い詰める場面が再現されました。

弁護側、「証拠排除の申立」と「それに伴う証拠調べ請求」

裁判所の了解により、検察の冒頭陳述に先立ち、佐藤博史主任弁護人が手続更新に際しての意見として、これらの申立と請求を約1時間かけて行いました。申立の理由について、開示された菅家さんの取調べ録音テープを引用しながら説明した際、検察官が「採用前の証拠であるから引用は不相当」と主張。しかし「証拠採否の判断には必要だ」と反論して続けました。裁判所は、時間どおりに終わるかどうかを確認しただけで弁論を容認しました。

続く「証拠排除の申立に伴う証拠調べ請求」は、<DNA鑑定関係>で①即時抗告審における本田克也鑑定書、②即時抗告審における科警研の意見書、<菅家さんの自白関係>で①15本の取調べ録音テープ、②別件2件に係る菅家さんの供述調書類、③取調べ捜査報告書、④森川検事の取調べノートの一部、⑤録音テープ反訳書、⑥録音テープの収録時期に関する千葉刑務所からの弁護士照会回答書、それと再審公判直前に朝日新聞で報道されて存在が判明した⑦森川検事が上司に提出した報告書などです。

検察側の「手続き更新に対する意見」と「証拠請求」

検察官は「菅家さんは本件の犯人ではないと考えられるので、本件については早期に無罪判決が下されるべきだと考える」と手続更新に際しての意見を述べ、「検察官としても無罪の立証をする」として再審請求の即時抗告審で提出された鈴木廣一鑑定書の取調べ請求を行いました。

それぞれの「証拠請求」に対する意見

検察官の証拠請求に対して弁護人は、鈴木鑑定書を不同意。

弁護人の証拠請求に対して検察官は、いずれも不必要と述べました。しかし裁判所から釈明を求められ、本田鑑定書については不同意、科警研意見書については現時点で留保、録音テープ等については重ねていずれも不必要、千葉刑務所回答書については伝聞性を問われ「不必要なのだが同意」と述べました。

証拠決定と録音テープの提示命令

合議のため20分の休廷後、法廷再開。裁判所は、11月24日の第2回公判で、鈴木廣一教授(検察側申請)と本田克也教授(弁護側申請)両名を証人として採用すると決定しました。

弁護人の請求証拠について、裁判所から、①「録音テープは供述証拠か否か」と②「別件2件の菅家さんの供述調書等の立証趣旨」について質問がありました。弁護団は、①は「取調べ状況が録音されたテープの存在を立証趣旨とする非供述証拠」、②は「本件に関連する別件2件についての供述経過」としました。非供述証拠として取り扱われることにより、検察官の不同意に対抗するためです。ただし、千葉刑務所からの回答書については供述証拠と回答しました。裁判所の求釈明は、証拠採用への手順を念頭においた周到なものだと考えられます。

録音テープ等については“採否の判断のため”検察官に提示を命じました(刑事訴訟規則192条)。検察官は、反訳書が提示命令の対象となることに疑義があるとして拒絶の姿勢を示しました。弁護団は訴訟遅延を避けるため、こちらで反訳書を作成するとし、弁護側で提出することになりました。

続いて検察官は「本田教授の採用は予想していなかった。そうであれば福島弘文科警研所長を証人申請するつもりである」として、科警研意見書には同意すると述べました。裁判所は科警研意見書を取り調べようとしましたが、その原本は再審請求即時抗告審の記録中にあるとして「記録の顕出」が検討されました。しかし、手続の正確を期するため次回以降の取調べとなり、閉廷の運びとなりました。

菅家さんの願い「森川検事を呼んでください!」

その時、菅家さんが突然手を挙げて発言を求めて立ち上がり、「森川検事を是非法廷に呼んで下さい。真犯人を見つけて下さい」と述べました。予想外の出来事でしたが、裁判長は「菅家さんの意見として記録に留める」として閉廷を宣言しました。

以上のとおり、第1回再審公判は中身の濃いものとなりました。弁護団としては、裁判所がその権限の範囲内でできるだけ充実した審理をする姿勢を示していると考え、その訴訟指揮を評価しています。同時に、検察官が、菅家さんの無実は明らかとしながら、鈴木鑑定書と並んで菅家さんの無実の重要な証拠である本田鑑定書を争う姿勢を露わにしたことで、検察官が守ろうとしている利益が菅家さんのためではなく科警研のためであることが明白になりました。弁護団は、菅家さんを地獄へ引き入れた科警研のDNA鑑定の誤りを必ず明らかにするため、強い決意で臨むことを再確認しました。