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足利事件 第2回再審公判(11.24)報告 

 2009年11月24日午前10時,宇都宮地方裁判所において,足利事件の第2回再審公判が開廷しました。

 冒頭,法廷撮影が行われましたが,前回同様,菅家さんは弁護側席に座っての撮影を求めましたが,裁判所は受け入れませんでした。

 撮影終了後,菅家さんが入廷して弁護側席に座り,審理が始まりました。

1,鈴木廣一大阪医大教授の証人尋問

 午前は,検察側申請によってDNA再鑑定を行った鈴木廣一大阪医科大学教授(証人としては検察側と弁護側の双方申請)の尋問が行われました。

(検察官の尋問)

 検察側の質問に対して、鈴木証人は,資料(半袖下着と菅家さんから採取した血液と口内粘膜)から採取したDNAについて,市販のキットを用いたPCR増幅とSTR(注:4塩基の短い単位の繰り返しでできているDNA型のひとつ)の検査を実施し,その結果,両者のDNA型は一致していないと出たこと,両者のDNA型が全て一致するのは,常染色体のSTRでは4兆7000億の1に過ぎないことなどを述べ,半袖下着の精液が犯人のものとすると,科学的には菅家さんは犯人ではないということになると述べました。

(弁護人の尋問)

 検察官による主尋問は30分ほどで終了し,その後弁護側の反対尋問が笹森学弁護士により行われました。

 鈴木証人は検察側の主尋問でも,鑑定は市販のキットを使ってやったこと,市販のキットによる鑑定が一般的で第三者にわかり易いと述べていましたが,反対尋問においても,市販の商品化されたキットは事実上の世界標準で,再現性が高いことを強調しました。

 そして,半袖下着から出たDNAが精子由来であるかどうかは,やたらと資料をいじって,精子が細胞として存在するのか確認することは,重要な資料を失わせてしまうことからしてはいないが,半袖下着から採取されたDNAは,アイデンティファイラー(注:常染色体にあるSTRを検査する市販のキット)によるSTR判定やアメロジェニン検査(注:XY染色体で性別を識別する検査)の結果からすれば,いずれも「1人の男性に由来するDNA」であると判断できると述べました。

 また,科警研の行った旧鑑定におけるMCT118型の電気泳動写真については,なかなか判別しにくい,「はっきりしない」と述べました。

 そして,自らMCT118型について再鑑定したか否かについては,自分はこれまでやったことがないが今回ははじめてやってみたこと,しかし,結果として型ははっきりとわからなかったと述べました。なお,このMCT118型の再鑑定に関する検査データは残っており,必要であれば提出できると述べました。

 また,弁護側申請の本田克也教授の鑑定で,鈴木証人の鑑定とは違って,MCT118型の鑑定結果が出たこと(18-24型)についてどう考えるかという問いに対しては,それはMCT118型鑑定に対する「習熟の違い」であり,本田証人の長年の経験に基づく技術から出た結果であると示唆しました。

 そして,鈴木証人の鑑定結果と本田証人の鑑定結果のいずれもが,半袖下着と菅家さんのDNA型が違うとの結果になっていることは,お互いの鑑定結果の信頼性を高め合っていると評価しました。

(裁判所の尋問)

 裁判官からは,まず,「1人の男性」のDNAが出たと言えるのはなぜかという質問がありました。これに対して鈴木証人は,仮に複数のDNAが入り交じっているときは,アイデンティファイラーやYファイラー(注:性染色体のうち,男性由来のY染色体上にあるSTRを検査する市販のキット)で確認される型が人によって違いが出るので,もし2人以上のDNAがある場合には,それぞれのローカスでピークが3本から4本出てくるはずだが,今回は出ていないから,全体として単独由来と言えるはずだと述べました。この他,裁判官からは,資料が劣化した場合の検査結果への影響や,MCT118型鑑定に関する一般的な知識を問う質問がなされました。

(鈴木廣一鑑定書の採用決定)

 尋問が終了した後,検察官請求の鈴木証人の鑑定書について証拠決定がなされ,弁護側が従前の不同意を撤回し,同意することで採用されました。

 

2,本田克也筑波大学教授の尋問

 午後は,弁護側申請の本田克也筑波大学教授の尋問が,午後1時30分開始予定を15分繰り上げ,午後1時15分から開始されました。

(弁護人の尋問)

 弁護側の笹森弁護士による主尋問では,まず,どのようにして半袖下着から鑑定資料を選択したのかの質問がなされました。これに対して本田証人は,鈴木証人が旧鑑定作成の際に切り取った部分に近いところから資料を採取しているのとは違い,カビやこけが着いている部分を選んでまずは検査したと述べました。その理由として,19年も経った資料で精子が細胞として残っているかどうか不確定だが,精子が壊れて流れ出たタンパク質が繊維にしみこみ,そこにカビやこけが付いていることが考えられた,そのため,カビやこけが付いている部分の布地の奥にしみこんだDNAを3回に分けて絞り出すようにして取り出して鑑定資料とした,と述べました。

 そして,PCR増幅したDNAを,まずYファイラーで男性由来であることを確認したうえで,YSTR,ミトコンドリアDNA,MCT118について検査を行ったところ,半袖下着と菅家さんのDNA型は一致しなかったと述べました。今回本田証人が行ったMCT118型の鑑定結果については,菅家さんは18-29,半袖下着は18-24とはっきりと出たと述べました。本田証人は,MCT118型の今回の鑑定については,機会や試薬を変えて,数百回以上は試した結果であると述べました。

 本田証人が市販のキットを使用しなかったことについては,市販のキットを実際に使ってみると型判定にぶれが生じたりするが,メーカーによって内容がブラックボックスになっていて,後に仕様を変えたり発売停止されたりすると,かえって再現が不可能となってしまうと述べられました。

 本田証人の鑑定については科警研の福島弘文名義で批判する意見書が出ているが,それらの批判については,スタッターといわれる誤差やピークの出方の実際の違いなど,もともと鑑定にあたって念頭に入れているものであって,型に間違いはないと述べました。

 また,科警研が行った旧鑑定については,とても適正な電気泳動が出来たとは言えず,その原因としてPCR増幅が失敗していると思われること,この映像を見てバンドが一致しているとする鑑定は,「絶対に間違い」であると述べました。

 そして,旧鑑定が行われた当時行われていた,ポリアクリルアミドに123マーカー(注:123塩基の繰り返しによるマーカー,いわば「物差し」)を流す型判定の方法だと,短い塩基のDNAがより遅く泳動するという逆転現象が生じ,正確な型鑑定は困難であったことが1992年の第1回多型学会で発表されているが,その論文は,現在本田証人の鑑定を批判している福島弘文科警研所長との共同研究であり,福島所長が当時MCT118は危険であると意見を述べていたと証言しました。

 なお,本田証人は被害者である真実ちゃんとその母親のDNAを使って鑑定したことがあるが(注:真実ちゃんのへその緒と,母親の口内粘膜を使って鑑定をしている。),その結果はと聞かれ,真実ちゃんはMCT118型で18-31,母親は30-31と出たと述べました。そして,あくまで一つの可能性としてではあるがと前置きしながら,半袖下着のMCT118型は18-24だったことから,科警研の旧鑑定(注:123マーカーを使った16-26型で,これをアレリックラダーマーカーで置き換えれば,18-29か18-30ないし18-31であると検察は主張している。)は,被害者である真実ちゃんの18-31型を拾った可能性もあり得ると述べました。

(検察官の尋問)

 検察側の反対尋問では,本田証人が行った鑑定では,全ての検査結果を出していないことについて質問がなされました。これに対して本田証人は,正確性があると判定したものを出すのは当然であって,検査結果が読めないものを出す必要もないと述べました。

 そして,常染色体についてSTR検査をしていないことの問題性について質問がなされたのに対して,本田証人は,常染色体のSTRは女性のDNAも判定してしまう可能性があり,かえって誤判定のおそれがあるので,鑑定の目的(注:半袖下着にある精子=男性由来のDNAと菅家さんのDNAとの同一性の有無)に適さないと述べました。

 また,検察官は,本田証人が残ったデータを消去したことの問題性について何度も問いましたが,本田証人は情報漏洩を防ぐためであったと述べました。この点は,後の弁護人の再尋問で佐藤弁護士が,検察官は残ったデータの消去を問題としているようだが,そもそもデータを消去しなければならなくなったのは,本田証人の問題というより,鑑定結果発表前に検察官側からマスコミに情報が漏れたからではないかと質問し,本田証人は,鑑定書作成前に情報が検察側から漏れたことでマスコミから待ち伏せを受けるなど激しい取材攻勢があったことを述べました。

(裁判所の尋問)

 裁判官は,科警研の旧鑑定がどうして上位バンドが低めに出るのかと問い,本田証人は,それはPCR増幅のミスか泳動ミスが原因であろうと述べました。

 また,裁判長からはYSTRとMCT118との関係について問われ,本田証人は,MCT118は男女DNA混合の可能性が否定できないが,それでYSTRが残っているところ,つまり圧倒的に男性のDNAが多いところでやる,もし混合があったらばピークは2人分出るはずだが出ていないと述べました。

(休廷)

 尋問が終わった段階で午後5時をかなり過ぎました。裁判長は尋問が終わったことと,10分ほど休廷して証拠請求に対する判断をすると宣言し,休廷となりました。

公判再開―証拠採用決定)

 午後5時40分ころ,公判が再開しました。

 裁判長は再開を告げると,続いてすぐに合議の結果採用することに決定した証拠を発表しました。

①本田克也鑑定書,②平成4年1月28日,③同年2月7日,④同年12月7日,⑤同月8日にそれぞれ実施された宇都宮地検検事による菅家さんの取調べ録音テープとそれらの反訳書,⑥千葉刑務所に対する照会回答書を,それぞれ書証として採用することとし,証人としては,⑦福島弘文科警研所長と,⑧菅家さんを取り調べた森川大司元宇都宮地検検事を採用するということでした。その他に請求済みの証拠は却下としました。

 弁護人側は,証拠決定に異論はないが,却下された取調べテープについては異議を述べました。検察官側は異議には理由がないと述べ,異議は却下されました。

 

3,次回第3回公判12月24日、第4回公判1月21,22日、判決は3月26

 裁判長は,①次回12月24日午後1時30分から福島証人を取り調べ,年が明けた1月には連日開廷とし,1期日半で証拠採用したテープを取り調べ,2日目の午後に森川元検事を取り調べたいとし,弁護人側,検察官側と日程調整の上,②1月21日と22日,それぞれ午前10時から1日を使って実施することを決めました。そして更に弁護人側,検察官側と日程調整のうえ,③それぞれの意見(論告,弁論)を聞く日を2月12日,④判決は3月26日と決定しました。

 なお弁護人側は,次回の福島弘文科警研所長については,水掛け論になるおそれがあることから,本日証人として出廷した本田克也教授と対質尋問(2人の証人を並べてそれぞれの意見を聞く方法)で請求することも考えていると述べました。

 午後5時50分を過ぎ,この日の法廷は閉廷となりました。

 

4,次回公判:福島科警研所長の証人尋問の意義

本田克也証人は、前記のとおり、「福島(現科警研)所長が当時(1992年)MCT118は危険であると意見を述べていた」と証言しました。

1993年5月7日宇都宮地裁判決(無期懲役)、1996年5月9日東京高裁判決(控訴棄却)、2000年7月17日最高裁決定(上告棄却)、2008年2月13日宇都宮地裁決定(再審請求棄却)という経過の中で、次回公判の証人である福島弘文氏は信州大学医学部教授(法医学)、日本法医学会理事、日本鑑識科学技術学会理事、日本DNA多型学会評議員、科警研所長という法医学の要職を歴任してきました。

同氏は自著『DNA鑑定のはなし』(裳華房 2003年初版、2005年第2版)において、足利事件について一項目を割いて解説をしております。「これは日本の刑事裁判で、DNA鑑定がはじめて裁判で認められた象徴的な事件でもありました。」、「MCT118は30以上の型(アリル)に分類されるため識別率が極めて高いことがわかります。特に欧米系よりアジア系集団に有効な検査であり、最近のSTRシステムの登場まではDNA鑑定の主流でした。」、「この事件(足利事件)のDNA鑑定についてはMCT118データベースの人数と型を判定するためのサイズスタンダードの123が争点になりましたが、最終的には最高裁での『無期懲役』が確定しました。」(同書96~97頁)

MCT118鑑定法が「危険」であると熟知しながら、これを「放置」というよりは、「容認」ないし「擁護」あるいは「推奨」してきた要職にある法医学者として、この誤判につき、いかなる良心と見識を示すのか、その証言を注目せざるを得ません。

この証人尋問により、わが国の刑事裁判の誤判原因の核心が明らかになることを期待します。